ホテルではない宿泊体験|ワコール「京の温所」を解剖
2026.03.30民泊市場
近年、民泊市場では個人ホストだけでなく、企業による宿泊事業参入が注目を集めています。
その中でも特徴的な事例が、アパレルメーカーとして知られるワコールが展開する宿泊事業「京の温所(Kyo no Ondokoro)」です。
本記事では、ワコールがなぜ民泊・宿泊事業に参入したのか、その事業モデルと提供価値、そして民泊業界に与える影響について整理します。
ワコールが展開する宿泊事業「京の温所」とは
「京の温所」は、ワコールホールディングスが京都市内で展開する一棟貸しの宿泊施設ブランドです。
築100年前後の京町家を活用し、1日1組限定で宿泊できるスタイルを採用しています。
特徴的なのは、町家を単に宿泊施設として転用するのではなく、一定期間の活用後に住居として返却することを前提とした再生スキームを採っている点です。
これにより、老朽化や後継者不足により失われつつある京町家を保存しながら、宿泊体験として価値化する取り組みを実現しています。
現在は西陣、御所周辺、二条エリアなど京都市内に複数棟を展開し、それぞれ立地や町家の個性を活かした設計がなされています。
伝統建築の保存と民泊を両立させる企業型モデル
京都では、景観規制や建築基準の影響もあり、京町家の維持が年々難しくなっています。
「京の温所」は、こうした背景を踏まえ、宿泊事業を通じて町家の価値を未来へつなぐ役割を担っています。
企業が主体となることで、以下のようなことが可能となり、結果として町家の保存と宿泊事業の両立が実現しています。
- 改修に必要な資金力
- 長期視点での運営計画
- 品質管理の統一
これは、民泊が「空き家活用」に留まらず、地域資産の保全と観光体験の創出を同時に成立させる事業モデルになり得ることを示す好例と言えるでしょう。
「暮らすように泊まる」を実現する宿泊体験設計

「京の温所」の宿泊体験は、一般的なホテルや都市型民泊とは明確に異なります。
最大の特徴は、宿泊そのものが京都での生活体験になるよう設計されている点です。
町家特有の奥行きある間取り、土間や中庭、和室と洋室が共存する空間構成は、非日常でありながら落ち着きのある滞在を生み出します。
キッチンや調理器具も備えられており、外食だけでなく「京都の日常」を感じる滞在が可能です。
また、書籍やアート、照明計画なども丁寧に設計されており、単に泊まる場所ではなく、時間の質を高める空間として機能しています。
ホテルとは異なるホスピタリティの形
「京の温所」は、チェックインやサポート体制においても独自性があります。
フロント業務は提携ホテルが担いながら、宿泊中はゲストが自分のペースで過ごせる設計となっています。
これにより、以下のようなことの両立が実現しています。
- ホテルのような安心感
- 民泊ならではの自由度
企業が運営に関与することで、清掃品質やトラブル対応の基準が明確化され、初めて民泊を利用するゲストでも安心して滞在できる環境が整えられています。
ワコールの参入が民泊市場に与える影響
ワコールの事例は、企業参入が民泊市場の価値基準を引き上げる可能性を示しています。
価格競争ではなく、「体験価値」「文化性」「空間の質」による差別化が評価される流れを後押ししていると言えます。
また、インバウンド需要の回復に伴い、単なる宿泊数の増加ではなく、滞在の質を重視する旅行者層の受け皿としても機能しています。
こうした企業型民泊の存在は、地域観光の質的向上にも寄与するでしょう。
個人民泊ホストが学べるポイント

「京の温所」から、個人ホストが学べる点も少なくありません。
- 立地や建物そのものを「体験」として捉える視点
- 宿泊前後を含めた一貫した滞在設計の重要性
- 地域性を打ち出すことで価格以外の評価軸をつくる考え方
すべてを真似する必要はありませんが、発想や設計思想は多くの示唆を与えてくれます。
おわりに
ワコールが手がける「京の温所」は、企業が民泊・宿泊事業に参入する意義を明確に示した事例です。
町家という地域資産を守りながら、宿泊体験として価値化する姿勢は、今後の民泊の方向性を考える上で重要なヒントとなります。
民泊市場が成熟期に向かう中で、こうした企業参入モデルは、個人・法人を問わず、宿泊事業の新たなスタンダードを提示していると言えるでしょう。
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